粋なレガシー

春を待つこの季節は
弟との別れをより鮮明に思い出させます。
2年前、もうすぐ春でした。

 

彼が遺したものは
たくさんの思い出だけではありませんでした。

 

にんじん、じゃがいも、なす、トマト、オクラ、かぶ、いちご、
枝豆、たまねぎ、にんにく、バジル、かいわれ、とうもろこし。

 

弟が農家の知人から肥料を調達し、
土を掘り起こすところから始めて
懸命に耕し種をまいた実家の家庭菜園は
帰省する度に規模拡大して

「庭では野菜が育たない」と
母が度々嘆いていたことがうそのように
庭から畑へと生まれ変わっていきました。

 

弟がたっぷりの愛情をかけて育てた
不揃いでいびつな形の野菜たちは
彼が居なくなってからもなお、
昨夏のとうもろこしに至るまで
母経由で度々私の元へ届きました。

 

悲しい現実を前に
一歩も前に進めなかった私に
何かを伝えるように何度も。

 

彼からの贈りものが届くたび
伝えるすべのない「ありがとう」を飲みこんでは
胸が苦しくなったけれど、
もう立ち止まるのはやめようと心に決めました。

 

弟が作りあげた家庭菜園は母が引き継ぎ、

今も花を咲かせ、実を実らせ

収穫された野菜たちが実家の食卓を彩っています。

 

彼が遺してくれた粋すぎるレガシーと
そのパッションに敬意を称して
今日も前を向こうと
見上げた空にそう思います。

 

 

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